古川友紀

3人の表現者の交差点

 

2021年1月、2回目の緊急事態宣言下の大阪・日本橋のギャラリー編かのこ(Gallery Ami- Kanoko)において、版画家・西藤博之氏の当ギャラリー18回目の個展「世界の涯てまでも」が 開催された。ガレキシリーズと題された、瓦礫を模した何百もの紙の小片が作家の思念を表象す るようにリズミカルに貼り付けられた作品や木材の自然な表情を生かしながら作家の痕跡を刻ん だ木彫作品が、ギャラリー空間に静かで小さな宇宙を生み出す。

今回、西藤氏の作品が展示されたギャラリー空間を舞台に、別の物語(あるいは物語ではないか もしれない何か)が生み出された。登場するのは、身体の表現者・古川友紀氏と言葉の表現者・ アベサトル氏。古川氏は、ダンサーであり、パフォーマンス・アーティストであり、散歩家である。 これまでも現代アーティストとのコラボレーションや自主企画のプロジェクトをはじめ、彼女の 思考は常に自身の身体性を携えて表現されてきた。一方、アベ氏は、2019年にギャラリー編かの こで個展「市井の人 アベサトルの思惟と制作」を開催(写真家のタカギトオル氏がプロデュー ス)。専門教育は介さず興味の赴くまま、文学から美術を横断し、平面から立体まで創作活動の 領域を広げているが、彼の表現の奥底には、逡巡し、葛藤し、それでも常に表現し切ることので きない大量の言葉が堆積している。

西藤氏の展示を起点に古川氏のパフォーマンスが生まれ、さらにパフォーマンス映像からインス ピレーションを受け、アベ氏の言葉が紡ぎ出された。ギャラリーという場所の記憶(旧ギャラリー の記憶、そして現ギャラリーの建物にまつわる記憶)を掬い取りながら、3人の思考は交差する。


「ちりばら ちりばな」 (監督・出演・編集:古川友紀 美術:西藤博之 詩:アベサトル 撮影:Book Room No.009 / 6:15)


 






パフォーマンス直後に、西藤氏と古川氏の対談を収録。表現領域を異にするアーティストが、同じ 空間を共有したそれぞれの表現について、移転リニューアルしたギャラリー空間(2020年、隣接 する木造建築から現在の鉄筋建築に移転)について、即興的に言葉を交わす。 (対談動画に続き、パフォーマンス動画が流れます)


「Listinin’ 古川友紀×西藤博之」 (撮影・編集:Book Room No.009 / 20:52)


 






「ちりばら ちりばな」で読まれる詩の全文を創作者のアベ氏自身が朗読。全文を公開するひと つの映像作品としてまとめた。雨音を背景に静かに淡々と発せられるアベ氏の声音(こわね)は、 その詩の掴みどころのなさを表しているかのように、耳にわずかな足あとを残すとすぐに、雨音 の中に消え入る。


「四月のあめ」(詩・朗読:アベサトル 撮影・編集:Book Room No.009 / 12:28)